これは大学病院時代のおはなし。
終末期患者さんのご家族が病室につきっきりのときのこと。
すぐ来れないんですか
症例

すいません、ちょっと横に向けてあげたいのですけど。

少々お待ちください。
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先ほどお伝えしたのですが、横に向けてあげたいのですけど。

すいません、少々お待ちください。
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すぐ来れないんですか?!
目の前の家族をどうにかしてあげたい。
その気持ちわかります。でもこれは伝えたい。
行けないんです。
医師と同じく看護師も業務がたくさんあります。
日中はまだしも夜間などはさらに人数も減り負担も増えます。
決して、無視しているわけではありません。優先順位があるのです。
点滴の管理、呼吸状態の悪化対応、転倒リスクの高い患者の巡回。
そして、緊急の対応が重なれば、どうしても「少し待ってもらう」しかない瞬間があるのです。
ご家族の「すぐ来れないんですか?」という言葉。
わかっています。
わかっているんです。
でも、今すぐには、どうしても行けない。
目の前にいる“この患者”と、別のナースコールを押している“あちらの患者”のどちらを今優先すべきかという判断。
感情ではなく、判断。思いやりではなく、対応力。
病院という場では、冷たいようですが、そういう一面があります。
医療者だって人間です。悩みます。迷います。
「誰かのケアを待たせてしまった」という事実に、あとで1人になってから胸を痛めることだってあります。
そして家族がずっと病室にいるというのは病院としてはリスクになることを知ってください。
昨今の感染症リスク。
どんなに検査やチェックをしても外から院内にウイルスが連れ込まれる可能性がゼロではありません。
もし院内感染が起これば病棟閉鎖になり、新規患者を入れることも難しくなり医療機関としての機能も収入も一気に失われてしまいます。
経営だけを考えれば本当は面会など一切ないほうがいい。
それでも、病院は“家族の想い”に寄り添おうとします。
誰かの最後の時間を、少しでも後悔のないように過ごしてもらいたい。
そのための面会制限緩和であり、家族付き添いという“サービス”でもあります。
決して、私たち医療者の仕事を“見張るため”にご家族に来ていただいているわけではありません。
そうではなく、患者さんのそばに寄り添いたいというご家族の想いを受け止めるために、
私たちは「付き添い」を許可しているのです。
ただ、その優しさや想いが、ときに現場のキャパシティを超えてしまうことがあります。
「なんで来てくれないんですか?」
そう言いたくなるお気持ちは、痛いほどわかります。
でも、誰かを助けに行くために、誰かを待たせなければいけない瞬間がある。
それが今の病院の現実です。

解決策
- 要望は具体的に、簡潔に伝える
- ナースコールは必要なタイミングに絞って
- 「ありがとう」を添えることで対応は変わる
要望は具体的に、簡潔に伝える
「横に向けてほしい」よりも、「背中が痛そうなので、右側を下にしてあげたいです」といった形で
何のために、どうしてほしいかを明確にすると、対応の優先度も上がりやすくなります。
ナースコールは必要なタイミングに絞って
呼びすぎると“緊急度の判断”が難しくなることもあります。
本当に困ったときのナースコールを「助けてくれる合図」にするためにも、
緊急と様子見の線引きをご家族同士でも話し合っておくのがおすすめです。
「ありがとう」を添えることで対応は変わる
医療現場はピリつきがちな場所ですが、
「お忙しいところすみません」「ありがとうございます」といった一言で、人間関係は一変します。
人対人の現場では、ほんの一言が、大きな信頼とスムーズな対応につながります。
まとめ
「どうしてすぐ来てくれないの?」と思ったときは、
伝え方やタイミング、内容を少し工夫してみてください。
不安や不満がある場合は、医師や看護師だけでなく、
相談窓口や医療ソーシャルワーカーに話すのも一つの方法です。
私たちは敵ではありません。
医療者とご家族が同じ方向を向いて協力することで、
患者さんにとって少しでも穏やかで、あたたかい時間が過ごせると信じています。
それではお大事にどうぞ。
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