これは大学病院での外来でのことです。
他科から癌が見つかったと紹介されたときです。比較的早期で自覚症状などもないときです。
もう歳だから
症例

検査をした結果、癌でした。状況次第ですが手術をすれば完全切除も可能かと思います。

いまんのところなんともないけどな。飯は食えるし、痛くもないし。

今はそうでしょう。明日に何か起こるということはありません。
このタイミングでみつかったのはラッキーでしょう。

治療して何か起こって死ぬこともあるんだろ?

合併症なしを目指しますが、絶対起こりませんとは言えないです。

俺ももう歳だから、手術なんかはいいよ。そのまま受け入れるよ。

それで納得でるのであれば構いません。
1年後

飯が食えなくて半年で10kg痩せた。どうにかしてくれ。

だから言ったのに。。。
もちろんこれはかなり省力して紹介しています。もっと説得しております。
特にこれで治療を断る、といったことは致しません。もちろん全力で治療に挑みます。
ただし確実に状況は悪くなっての治療は難渋します。
なんとか完全切除に至れたこともありますが残念ながら手術まで至らなかったこともあります。
年齢が手術に対してリスクになることはわかります。
我々が治療を勧めているのはこの1年後を見越して、そして治療をおこなった方がメリットになると思っているから勧めているのです。
以下の表は年齢別に下記の手術を受けた人数になります。
腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術
60-64歳 | 65-69歳 | 70-74歳 | 75-79歳 | 80-84歳 | 85-89歳 | 90歳以上 |
1208 | 1583 | 2141 | 3883 | 4393 | 2733 | 1014 |
上記データは厚生省より発表されている第10回NDBオープンデータになります。
レセプトデータとして提出されたものをまとめたものになります。
膨大なデータとなりますが誰でも見れます。
レセプト
診療報酬明細書。医療機関が保険診療にかかった費用を保険者に請求するための明細書。
腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術は大腸癌で行われるスタンダードな手術になります。
罹患数はおそらく高齢になれば増えるかと思いますが90歳以上でもこれだけ受けていることがわかります。
疾患別で差が出るのは当然ですが私が行っていた手術の中では比較的多い手術ではあるかと思います。
手術をするべきかしないべきかは年齢だけでなく今までの病気、現在の体力、そして本人のやる気を見ています。疾患によりけりですがね。
解決策
- 主治医とよく相談する
- 他の病院の意見を聞く
- 家族と相談する
- 後悔のないようにする
主治医とよく相談する
病気が、手術が怖いのは当然です。
じゃあなんで怖いのか。病気、治療に対して理解、知識が足りないからです。
しっかりと情報を取って相手(病気)の正体を見極めていきましょう。
他の病院の意見を聞く
ご高齢の治療についてどうするかは医療者の中でも意見が分かれることもあるかと思います。
やらない方を進める専門家の意見も必要でしょう。
主治医にセカンドオピニオンを希望して他の医師の意見を聞いてみるのもよいでしょう。
セカンドオピニオン
現在診てもらっている主治医と別の医師に意見を求めること。
検査結果、主治医の考えなどを情報として持っていくため必ず主治医にお伝えしましょう。
家族と相談する
治療にあたってきちんと家族は支えてくれるのか。
家族一団となって治療に向き合っているのか、ご本人の選択に理解・納得をしているのか。
自分の体は自分だけのものではありません。家族の意見も尊重して決めていくべきかと思います。
後悔のないようにする
一番大切かと思います。
医師としては治療を受けても受けなくてもどちらもでよいと思います。これに答えはないです。
それを運命だと思い受け入れるのであればそれもまた人生かと思います。
しかし、後になりあの時にやっておけばよかった。
なんでもっと治療を勧めてくれなかったんだ、と後悔するのだけはやめましょう。
まとめ
高齢になり大きな病気の治療をどうするかは人生のなかで最後に近い大きな選択かと思います。
これに対して他人が強制することはできません。
年齢だけであきらめる、ということはやめた方がよいかと思います。
あなたの人生はあなたのものです。そしてその責任もあなたのものです。
後悔の少ない人生を歩みましょう。
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